まくら

読んだ本や好きな文章の感想

小説

宮本輝『星々の悲しみ』読んだ

以前読んだ『青が散る』がめちゃくちゃ面白かったので、それ以来宮本輝の作品をいくつか読んでいる。 今回は『星々の悲しみ』という短編集を読んだ。 星々の悲しみ (文春文庫) [ 宮本 輝 ]価格: 660 円楽天で詳細を見る 好きだったシーンはまず、表題作「…

木村紅美『夜の隅のアトリエ』と、北陸という土地

富山かな?と思ったら富山だった。 陰鬱陰鬱陰鬱な北陸の冬と雪がこれでもかと描写されていて、これだよこれと思った。 夜の隅のアトリエ 作者:木村 紅美 文藝春秋 Amazon 初めて読む作家だったが、感情の乏しい淡々とした文体が好みだった。 この描写が特に…

『マチネとソワレ』13巻読んでから谷崎潤一郎「春琴抄」読んだ

マチネとソワレの話は以前もした(下記リンク参照)が、13巻であった「春琴抄」の回が好きだったのでまた書く。 谷崎潤一郎「春琴抄」は青空文庫でも読めます。私は青空文庫ビューアのアプリで毎日空き時間にちょっとずつ読みました。短めなので結構すぐ読めま…

私じゃないけど私だった 川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』

5年ぐらい前に初めて読んだときも「あ〜〜いい本だな〜」とは思ったんですけど、それからいろいろあって、転職して、首都圏にやってきて、すさまじい人混みに揉まれて、友達の結婚式に出て、「人生」をそろそろ真面目に考えるようになった今読んで「私だ」っ…

桜庭一樹『私の男』 どエロい。

近親相姦かくあるべし、というような本だった。私はこれ読むまで別に近親相姦ものは好きでも嫌いでもなかったし、読み終わった後でも好きでも嫌いでもないが、「父と娘の近親相姦なら『こう』じゃねえとな。」と思った。 もう序盤の「匂わせ」描写がほんと~…

村上春樹『一人称単数』読んだ

これまで読んできた村上春樹の短編集の中では一番好きだった。 長編は好きなのが多いんだけど、短篇はこれまであんまり好きなのに出会えていなかった。『レキシントンの幽霊』とか『回転木馬のデッド・ヒート』、『パン屋再襲撃』とかいろいろ読んだ気がする…

小野不由美の十二国記シリーズを『黄昏の岸 暁の天』まで読んだわけだけど

なにこれ……? ハチャメチャに、面白い…… 世界にはまだまだ面白い本がある。 私、最近まで(厳密にいえば2022年に「ファイアーエムブレム風花雪月」という神々が作りしゲームに出会うまで)ずっと「ファンタジー作品」というものに抵抗感を抱いていて、中学生…

宮本輝『青が散る』を読んで完全に「大学生」になった

人からもらった宮本輝の『青が散る』を読んだ。読む前はあんまり期待してなかったんだけど、読み終わってみたら「め……めちゃくちゃ面白かった~…………」って空を仰いで呆然とするぐらいに良い小説だった。 『青が散る』の舞台は1960年代、大阪。茨木市に新設さ…

大江健三郎『芽むしり仔撃ち』10年ぶりぐらいに読んだけどやっぱりキツイ

描写がめちゃくちゃ上手いからこそキツい本ってあるよね~ 芽むしり仔撃ち (新潮文庫 おー9-3 新潮文庫) [ 大江 健三郎 ]価格: 605 円楽天で詳細を見る 大江健三郎は『芽むしり仔撃ち』と『死者の奢り・飼育』ぐらいしかちゃんと読んだことはないんですが…

中村文則と又吉直樹――『何もかも憂鬱な夜に』『夜を乗り越える』

私は中村文則の『何もかも憂鬱な夜に』という小説を崇拝しているんですが、又吉直樹がその本の感想を『夜を乗り越える』って本の中で書いてて、それ読むと私が『何もかも憂鬱な夜に』読んで思ったことがほとんどそのまま書いてあった。私が書き添えること、…

赤ちゃんはいつから「ばぶ」と言うようになったか:『吾輩は猫である』より

赤ちゃんの喃語を「ばぶ」「ばぶばぶ」みたいに表記するのって結構最近(早くても戦後とか)のことかと思ってたんですけど、夏目漱石『吾輩は猫である』(1905発表)読んでたら赤ちゃんが「ばぶ」と言うシーンがあって驚いた。 それで赤ちゃん言葉「ばぶ」はい…

島尾敏雄『死の棘』読んだ(『男流文学論』③)

『死の棘』やっと読み終わった。会社の始業前と昼休みに毎日ちょっとずつ読んでたんだけどそのたびに気が滅入った。夫の浮気が原因で発狂した妻と、その妻と抱き合いながらぬかるみの中を滑り落ちていくようにして自身も狂っていく夫の話。 (今週のお題「最…

J.D.サリンジャー著/村上春樹訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』読んだ

前々から名前は知っていて気になっていた。ようやく読めた。 海外文学って「有名で気になっているが読んだことがない本」が多い。モモとか長くつ下のピッピとか、実は読んだことがない。星の王子様は高校生のときに初めて読んだんだけど「これは小中学生のこ…

大須賀めぐみ『マチネとソワレ』と、江戸川乱歩『孤島の鬼』

『マチネとソワレ』っていう演劇をテーマにした漫画が面白くて好きなんですけど、その中で出てきた江戸川乱歩原作『孤島の鬼』の作中劇(使い方あってる?)がドドドド好みで「ありがとう!!!!!!!!」っつって絶叫しながら読んだ。 『マチネとソワレ』は…

トルストイ「クロイツェル・ソナタ」読んだ

トルストイを読んだのはこれが初めてだったがなかなか面白かった。 イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ (光文社古典新訳文庫) [ レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ ]価格: 770 円楽天で詳細を見る 「イワン・イリイチの死」目当てで読んだけど「…

夏目漱石『それから』読んだ / 転職活動で疲れている

漱石の『それから』読んだんですけど漱石の本によく出てくる高等遊民?なんなんですか?羨ましいですね。私だって本当はこんな風に生きてみたいがなぜかせっせと履歴書を書いて笑顔を作りパソコンのモニターに向かって「ありがとうございます!」と言いなが…

上野千鶴子・小倉千加子・富岡多惠子『男流文学論』(2)――吉行淳之介『砂の上の植物群』

(1)はこちら。 吉行淳之介『砂の上の植物群』を読みました。 吉行淳之介の小説を読んだのはこれが初めてです。 砂の上の植物群(新潮文庫)【電子書籍】[ 吉行淳之介 ]価格: 539 円楽天で詳細を見る 『砂の上の植物群』では、亡き父の影に囚われている三十七…

上野千鶴子・小倉千加子・富岡多惠子『男流文学論』(1)――村上春樹『ノルウェイの森』

『男流文学論』、めちゃくちゃおもしろ大当たり本でした。 著名で評価も高い男性作家の文学作品に対するフェミニズム批評です。上野千鶴子(社会学者)・小倉千加子(心理学者)・富岡多惠子(作家・詩人)による鼎談形式ですね。歯に衣着せぬ物言いが痛快でキモチ…

「ハンカチを噛む女」という概念について(+水城せとな『窮鼠はチーズの夢を見る』『俎上の鯉は二度跳ねる』読みました)

ちょっと昔の漫画とかで、「ハンカチを噛んで悔しがる女」って出てきますよね。 具体的にどの漫画で見たのかと言われると名前は挙げられないんですが…… 私は今日までそれはどこかの漫画の大家がやり始めた漫画特有の表現だと思ってたんですが、国木田独歩「…

最近読んだものや観たものの感想

もろもろ感想。ネタバレ注意 森鴎外『ヰタ・セクスアリス』(小説) 谷崎潤一郎『陰翳礼讃』(評論?) 河野多惠子『みいら採り猟奇譚』(小説) 富岡多恵子『波うつ土地』(小説) 田村由美『7SEEDS』(漫画) ジャルジャル単独ライブ「愛るしい、きみ」 久保帯人『BL…

村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』読んだ

めちゃくちゃよかった。少なくとも2021年に読んだ小説の中で一番よかった。 新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫) 作者:村上 龍 講談社 Amazon 新装版 コインロッカー・ベイビーズ (講談社文庫) [ 村上 龍 ]価格: 1012 円楽天で詳細を見る なん…

メチャクチャ好きな短編 芥川龍之介「蜜柑」

芥川の「蜜柑」……めちゃくちゃ好きなんですよね~ 話の展開が鮮やかすぎる、これぞ「短編」のお手本って感じで…「起承転結」がすごくちゃんとしていると思います。 芥川の作品の中で好きなやつ三つ挙げろと言われたら、「地獄変」と「蜜柑」は入るかな…って…

最近読んだ本(太宰治『ヴィヨンの妻』・『京大変人講座』)

太宰治は『人間失格』「走れメロス」ぐらいしかちゃんと読んだことがなかったんですが、この前読んだ「猿ヶ島」が面白かったので短編集を買ってみました。 ヴィヨンの妻改版 (新潮文庫) [ 太宰治 ]価格: 407 円楽天で詳細を見る 率直に言うと、同族嫌悪み…

芥川龍之介「地獄変」:娘はなぜ焼かれたか

地獄変のこと愛してるのに、実はこれまでこの話の解釈を突き詰めて考えたことがなかったので考えてみた。 ただ、いくつか論文を読んでるうちに「これはガチでやると記事書くのに一月以上はかかるな!?!?」と感じ、そこまでは時間をかけたくないなと思った…

地獄変をすこれ

芥川龍之介の「地獄変」がめちゃくちゃ好きです。 なぜならエロいから。 これ、エロいよね…? エロいという言い方がふさわしくないのであれば、非常に官能的だよね? 燃やされながら身悶えする娘の描写は大変官能的ですよね。しかし特に私は「この上なく大切…

それを、ほんとうにわたしは見たのだったかしら――川上弘美『真鶴』

川上弘美の『真鶴』、ほんとうに好きです。 年に一回、冬の終わり、春のはじめ頃になると、読みたくなります。五回ほどは読んだと思いますが、何回読んでもよい。ストーリーも好きですが、それ以上に言葉の運び方選び方、作者のものの見方が好きなので、何度…

4/4追記「見たこともないような美しく冷酷なものに、からめとられる」アンナ・カヴァン『氷』

タイトルの「見たこともないような美しく冷酷なものに、からめとられる」というのは、川上弘美さんによる解説の中にある言葉なのですが……言い得て妙。文庫版『氷』の帯にも使われているのですが、ずばりこの作品の異様さ、麻痺するような美しさ、残酷さが言…

中村文則『掏摸』

生活していく中でいろんなことが終わってきたなと思ったら中村文則の本を読みます。たいてい私よりも終わっている人が出てくるので。 いや~~~……中村文則、めちゃくちゃ好きなんですよ。割と私の中で当たりはずれがあるので軒並み全部好きというわけではな…

三島由紀夫のなんかよくわからんけどエッチな気がする短編小説「花火」

初めてこれ読んだときは「なんだ…?よくわからんな……」と思ったんですが、読み終わってからしばらくして「あの小説ってなんか……エッチじゃなかった!?!?」となりました。 それでこの前改めて読んでみたんですが、「……?いや別にエッチではないわ……考えす…

腐っていく苺のショートケーキ 小川洋子「洋菓子屋の午後」

小川洋子の本がとても好きです。著作は全てではないですがいろいろ読んでて、短編の中で一番好きなのはこの「洋菓子屋の午後」。文庫本のページにしてわずか15ページ。短編小説って物足りなく感じることが多くてそこまで好んで読まないんですが、「洋菓子屋…