まくら

読んだ本や好きな文章の感想

「ハンカチを噛む女」という概念について(+水城せとな『窮鼠はチーズの夢を見る』『俎上の鯉は二度跳ねる』読みました)

ちょっと昔の漫画とかで、「ハンカチを噛んで悔しがる女」って出てきますよね。

具体的にどの漫画で見たのかと言われると名前は挙げられないんですが……

 

私は今日までそれはどこかの漫画の大家がやり始めた漫画特有の表現だと思ってたんですが、国木田独歩「わかれ」(1898年発表)を読んでいたら「ハンカチを噛む女」が出てきて驚きました。漫画が初出の表現というわけではなさそうですね。

 慷慨に堪えざるもののごとく、『君を力にてわが望みは必ず遂げん。』熱き涙一滴、青年が頬をつたいしも乙女は知らず。ハンケチを口にくわえて歯をくいしばりぬ。しばし二人は言葉なく立てり。汽笛高く響きし時、青年は急ぎ乙女の手を堅く握り、言わんとして言うあたわず、乙女がわずかに『御身を大切に』と声もきれぎれに言うや『君こそ、君こそ、必ず心たしかに忍びたまえ、手紙を忘れたもうな。必ず……。』

 

「ハンカチを噛む女」を小説で見たのは初めてだったので他にも用例があるのか気になり、日本語コロケーション辞典 テストページ(青空文庫内のテキストが対象)で「ハンカチ」「ハンケチ」「手巾」で検索をかけてみました。

 

結果、大倉燁子「蛇性の執念」(1935年発表)に以下のような用例が見つかりましたが、私が見つけたのはこれのみで、小説においてはあまりメジャーな表現ではなさそうでした。(結果は目視で確認したので見落としがあるかもしれません)

 

『政略結婚! 親の犠牲になったのですわ。でも一番悪いのは私です。私の意志が弱かったからこそ、こんな悲しいことになってしまったんです。意気地なしだからです。馬鹿だからです』
 綾子さんはハンケチを歯で破きながらいい続けます
『ああそれにつけても文夫さえ自殺してくれなかったら――。何故文夫は死んだんでしょう? 先生、私はその原因が知りたいんです。真実(ほんと)のことがね、死ななければならない事情があるなら、私にだけは話してくれてもよかったと思いますわ。黙って独りで死ぬなんて――。それをどんなに口惜しく思っているか、先生、私の気持お分りになりますでしょう?』

 

もし国木田独歩が「悔しさのあまりハンカチを噛んだ」みたいに書いていたのなら「わかれ」が「ハンカチを噛む女」の初出である可能性も無きにしも非ずだったんですが、そうではなかったので、作品が発表された1898年当時「ハンカチを噛む」=「激情を抑えようとする」という図式が人々の間である程度共有されていたんでしょうね。

 

で、じゃあ「ハンカチを噛む女」の元ネタが何なのかというと、浄瑠璃や歌舞伎である可能性が高そうです(ハンカチを噛んだのは誰だ (駄) | 生活・身近な話題 | 発言小町)。

私は浄瑠璃や歌舞伎を見たことがほとんどないので自信をもっては言えませんが……。

 

ただ、歌舞伎なんかはおそらくハンカチではなく手ぬぐいを噛んでいるのではないかと思うので、「ハンカチを噛む」の初出は何かと言われたらちょっとわかりませんでした。

これ、大学のレポートなんかにちょうどいいテーマではないですか?もし調べてわかった人がいたら教えてください。

 

 

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昨日、知人に激推しされて水城せとな『窮鼠はチーズの夢を見る』『俎上の鯉は二度跳ねる』を読みました。

 

薦めてくれた知人、「私の人生の教科書 教科書に掲載して義務教育でやってほしい 人間全員に読んでほしい」と言っていたのでオタク特有の誇張表現か……と思っていたんですが、読んだらマジで人生の教科書でした。少なくとも高校ぐらいでやったほうがいい。

 

いや……スッゴ……スゴイ…………すごかった…………………

あまりにもすごすぎて読みながら布団殴ってた。

私は恋愛が主題の作品って割と敬遠してしまう(単純にあまり感動したことがない)んですが、これは本当に最強、極上のラブストーリーでした。私が今まで読んできた恋愛物の作品の記憶全て塗り替えてこれが堂々一位。間違いない。

“学び”が………多すぎるッッ……………!!!!!!!!

 

ちょっとまだ一回しか読んでないので気の利いた感想が出てこないんですけど、とにかく感動したのでその感覚が残っているうちにそれを書いておきたかった。

 

異性愛者が大多数を占める社会で「同性を選ぶ」っていうのがどういうことなのか?にきちんと向き合って描かれた作品だと思った。本当にありがたい。こういうのが欲しかった。私はこういう作品をずっと待っていたのかもしれないって読んで気づいた。

エンタメとしての恋愛、娯楽として消費するセックスじゃなくて、生きていくうえで恋愛・性愛・近くの他者にどう向き合っていけばいいのかって……さ……そういう哲学、問題提起、答えが用意されていなくて構わないから私の腹にドンッッ!!!!って食い込んでくるような問いかけをしてくれる作品が好きだ……

 

あと「責任を取る」ことね……相手任せにするのって楽で、卑怯だよね。「何でもいいよ」「何してほしい?」って親切で寛容なふりして実際責任逃れなんだよなぁ……ウッ……身に覚えがある……

責任を取ること、人と向き合うこと、それも多分この本のデカいテーマでとてもよかった 小並感になってしまってつらい

 

また何回か読んで人と語り合って本の内容を咀嚼できたらまたクソ長感想書くかも……とにかくよかった……この本に今出会えてよかった……