いろいろ読んだので、簡単な感想を書く。
- 山白朝子『私の頭が正常であったなら』
- 長谷川眞理子『進化的人間考』
- 國分功一郎『暇と退屈の倫理学』
- 芦花公園『異端の祝祭』『とらすの子』『聖者の落角』
- 村上春樹『羊をめぐる冒険』
- 千葉雅也『オーバーヒート』
- 平井大橋『ダイヤモンドの功罪』
山白朝子『私の頭が正常であったなら』
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この前の記事(すさまじく悲惨なポップ、乙一「カザリとヨーコ」)で言ってた乙一の別名義の本を読んでみました。
かなりきれいめな乙一、という感じ。確かに奇妙でちょっと残酷なエッセンスは乙一だなぁという感じですが、猟奇的、というほどのものはない。どれも読後感がほのかに明るくて優しかった。
長谷川眞理子『進化的人間考』
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人間の進化の過程、他の動物(哺乳類、類人猿、チンパンジー)との違いについて簡潔にまとめた本。
論理が明快で非常に読みやすかった。
「性差についての議論は性差別の問題と密接に関連している」、「『差異がある』という記述は容易に価値観と結びつけられ、『差別を正当化している』のと同じ意味に取られる」と述べたうえで、「人間の生物学的性差は、哺乳類、霊長類としての進化の名残として様々な側面に存在すると考える」とはっきり書かれていたのでなんかスッキリした。
「生物学的性差と文化による影響を分離して考えようとする人たちは、文化があたかも独立して存在するかのように論じるが、私はそれは違うと思う。文化を持つことを可能にしている性質自体が、ヒトの脳の生物学的性質の一つなので、文化の生成や伝搬自体にヒトの生物学的性質が関与している。だから、セックスとジェンダーはなかなか分けられないだろうと考える。」(pp.57-58)
こんなふうにスパンと述べてもらえるのはありがたい。このあと、男女の違い(たとえば、攻撃性)について生物学的観点から論理的に述べられており興味深かった。
「群淘汰の誤り」の話も知らなかったなぁ。読んでみようと思いつつ分厚すぎて手を出せていなかった『利己的な遺伝子』の内容についても触れられていて助かった。本棚に置いてちょくちょく読みたい一冊だった。
國分功一郎『暇と退屈の倫理学』
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ハイデッガーによる退屈の3分類は全く知らない概念だった(というかハイデッガーについて何も知らないのだが)ので興味深かった。
しかしなんというか、結論まで読むと、まあ確かに……そうなのかもしれないね……とはなるんだけど、「でもそれってあなたはそう考えるってだけですよね。」という気持ちにどうしてもなる。これは思想書とか哲学書とか全般に対して思うんことなんだけど。
以前、とある人が「小説はまどろっこしいので思想書のほうが好き」といったことを書いているのを読んだんだけど、私はやっぱり小説のほうが好きだ。
小説って個人的な事柄を描くものだけど、そういう「個人的なもの」「具体的なもの」をつきつめたところに「普遍」があると感じるんだよね。そしてその普遍に至るまでの個人の経験が描写されていないと、どうにも納得感を得られない。
確かに遠回りだし、読んでみるまで何が書いてあるのか、何が得られるのかわからないって点は悠長な娯楽だと思うけど、なんかな~思想書はな~~~「普遍の真理」だと感じられないんですよね。もしかしたら真理を書こうとしているものではないのかもしれないが。
芦花公園『異端の祝祭』『とらすの子』『聖者の落角』
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芦花公園さんの名前を知ったのは『超怖い物件』という物件系ホラーアンソロジー。この本の中では平山夢明と芦花公園の話が面白かった。平山は別の本をすでに読んだことがあったので、芦花公園を掘り下げてみようと思った。
複数人による語り、土着信仰や宗教もののホラーが好きな人は楽しめると思う。あと田舎の変な風習系の洒落怖が好きな人にもオススメ。
とつぜん論理が崩れるような語りがあったりする、さりげない不気味さが好き。ただ、ところどころ描写が物足りない。読み手にとって未知の現象が起こっているシーンほど詳しく描写してほしいと思った。ネットで読むなら気にならないんだけど、紙の本で読むと気になる。
カクヨム(芦花公園(@kinokoinusuki))でもたくさん読めるので、気になった人はぜひ。
村上春樹『羊をめぐる冒険』
好きでたまに読むんだけど、何度読んでもストーリーを忘れているので毎回新鮮に読める本(村上春樹の話はだいたいがそう)。
羊シリーズ(風の歌を聴け、1973年のピンボール、羊をめぐる冒険、ダンス・ダンス・ダンス)の主人公は比較的ユーモラスな男なので新鮮ですね。
あと、村上春樹の主人公って、友達への義理立てが強固だよね。自分の身が破滅するかもって状況になっても、友達に迷惑がかかるかもしれないようなことは「言えません」ときっぱり言える。どことなくあだち充の描く主人公感がある。
好きな言葉はこれ。
「キー・ポイントは弱さなんだ」と鼠は言った。「全てはそこから始まってるんだ。きっとその弱さを君は理解できないよ」
「人はみんな弱い」
「一般論だよ」と言って鼠は何度か指を鳴らした。「一般論をいくら並べても人はどこにも行けない。俺は今とても個人的な話をしてるんだ」
僕は黙った。
(p.224)
「一般論をいくら並べても人はどこにも行けない。」そうなのである。個人的なことにこそ意味がある。
何回読んでも星付き羊や羊男、ラストの怒涛の展開に意味を与えられないが、そういうところが面白い。
千葉雅也『オーバーヒート』
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恋愛小説が読みたいなぁと思って本屋をぶらついていたら、帯に「究極の恋愛小説」とあったので購入してみた。……が、ちょっと私には恋愛小説だと思えなかった。
主人公が絶妙に嫌な奴…というより「痛い」奴なんだが、その痛さが「あるある」と言えばあるあるで、果たして主人公に共感しながら読めばいいのか距離を取って読めばいいのか最後の方までよくわからず、モヤ感があった。
芥川賞の選評で「もっと『嫌な奴』になるべきだったと思う」「偽悪的な男に、一片のもの哀しさを感じることができれば、全く違った印象の小説になったかもしれない」などとあったように(参考:芥川賞-選評の概要-第165回|芥川賞のすべて・のようなもの)、個人的にはもうちょっと振り切って(わかりやすく)書いてほしかった。
ヤンチャそうな売り専の男性(主人公はゲイ)の裸を見て「それ、入れ墨消したの?」と聞いたら「返事をせずに、ハハ、と乾いた笑いを吐き、シャワーを浴びようと言った。単純に『そうだよ』と言うと僕は思ったから、その避けるような反応は意外で、言わなきゃよかったと後悔した」(p.126)というシーンは文学を感じて好きだった。
平井大橋『ダイヤモンドの功罪』
最新刊(6巻)まで読んだんですが、お……………おもしろ~~~~~~~~~~~い………………………………
タイトルのまんま、ものすごい才能をもったある野球少年が活躍したり、周囲を破滅させたりする話。
この漫画でとにかく力が入っているのは心理描写。圧倒的な才能を前にして心が壊れていく周囲の人間はもちろん、その天才自身の苦悩もこれでもかと描く。
「みんなで楽しくやりたい天才」は、チームスポーツでこんなにも周囲を狂わせてしまうのかと………。新井英樹のRIN(新井英樹『RIN』とかいう最高傑作)も「天才の孤独」を描いた作品だったけど、あっちの主人公は(表面上)周りの人間みんなをバカにするような傲岸不遜なタイプだったのに対して、こっちの主人公は「みんなで仲良く、楽しく、いっしょにスポーツしようよ」というタイプ。リンも厄介だったけど、こっちもこっちでめちゃくちゃ厄介だぁ……。
「一本か二本くらい… 打たせてあげようよ」って言う天才ピッチャーの球を受けるキャッチャーの心がどうなるのか?
「屈辱」というものを、ものすごく丁寧に描いている。
人間関係の入り組み具合や絵柄は『おおきく振りかぶって』から影響を受けていそうで、セリフや表情、演出は『青野くんに触りたいから死にたい』を思い出させた。これらの作品が好きな人はダイヤモンドの功罪も好きかも。
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いまは万城目学『偉大なる、しゅららぼん』と沼田まほかる『ユリゴコロ』を読んでいる。どっちも初めて読む作家だが、面白そうである。
最近いろいろあって元気がなく、あまり長文が書けない。元気を出したい。