まくら

読んだ本や好きな文章の感想

夏目漱石『それから』読んだ / 転職活動で疲れている

漱石の『それから』読んだんですけど漱石の本によく出てくる高等遊民?なんなんですか?羨ましいですね。私だって本当はこんな風に生きてみたいがなぜかせっせと履歴書を書いて笑顔を作りパソコンのモニターに向かって「ありがとうございます!」と言いながら頭を下げている。

 

 

「僕の知ったものに、まるで音楽の解らないものがある。学校の教師をして、一軒じゃ飯が食えないもんだから、三軒も四軒も懸け持をやっているが、そりゃ気の毒なもんで、下読をするのと、教場へ出て器械的に口を動かしているより外に全く暇がない。たまの日曜などは骨休めとか号して一日ぐうぐう寐ている。だから何所に音楽会があろうと、どんな名人が外国から来ようと聞きに行く機会がない。つまり楽という一種の美くしい世界にはまるで足を踏み込まないで死んでしまわなくっちゃならない。僕から云わせると、これ程憐れな無経験はないと思う。麺麭(パン)に関係した経験は、切実かもしれないが、要するに劣等だよ。麺麭を離れ水を離れた贅沢な経験をしなくっちゃ人間の甲斐はない。君は僕をまだ坊っちゃんだと考えているらしいが、僕の住んでいる贅沢な世界では、君よりずっと年長者の積りだ」

 平岡は巻莨(まきたばこ)の灰を、皿の上にはたきながら、沈んだ暗い調子で、

「うん、何時までもそう云う世界に住んでいられれば結構さ」と云った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

麺麭(パン)に関係した経験は、切実かもしれないが、要するに劣等だよ。麺麭を離れ水を離れた贅沢な経験をしなくっちゃ人間の甲斐はない。

 

うるせ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!私だってそうやって生きてえが、でも、パンがないと死ぬだろ!!???!??

本当は私だって美しいものに感動するばっかりで生きてえよ・・・・・宮本から君へで裕二だって「人は感動するために生きてっからよ」と言っていた、本当にその通りだと思う。

むしろそういう美しいものに感動するための余暇と資金を確保するために必死で働いてんだよこっちはよ……この坊っちゃんが………

 

 

でも『それから』は取り澄ましてこんなこと言ってた理屈っぽい坊っちゃんが友人の妻を略奪する(しようとする)から“良い”んですよね……

 

主人公の代助が友人の妻である三千代に思いを告げる直前のシーンがすごくすごく美しかった。

 

 彼はしばらくして、

「今日始めて自然の昔に帰るんだ」と胸の中で云った。こう云い得た時、彼は年頃にない安慰を総身に覚えた。何故もっと早く帰ることが出来なかったのかと思った。始から何故自然に抵抗したのかと思った。彼は雨の中に、百合の中に、再現の昔のなかに、純一無雑に平和な生命を見出した。その生命の裏にも表にも、慾得はなかった、利害はなかった、自己を圧迫する道徳はなかった。雲の様な自由と、水の如き自然とがあった。そうして凡てが幸(ブリス)であった。だから凡てが美しかった。

 やがて、夢から覚めた。この一刻の幸(ブリス)から生ずる永久の苦痛がそのとき卒然として、代助の頭を冒して来た。彼の唇は色を失った。彼は黙然として、我と吾手を眺めた。爪の甲の底に流れている血潮が、ぶるぶる顫える様に思われた。彼は立って百合の花の傍へ行った。唇が花びらに着く程近く寄って、強い香を目の眩(ま)うまで嗅いだ。彼は花から花へ唇を移して、甘い香に咽せて、失神して室(へや)の中に倒れたかった。

 

本当にこの……百合の香りを嗅ぐ描写、美しすぎる。

特に「花から花へ唇を移して」のところ。これもし私だったら「唇」じゃなくて「鼻」や「顔」にしたかもしれない。でもここで「唇」という語を使うから、代助が百合に接吻しているように見える、ひいては三千代への接吻を読者に想起させる。これぞ、耽美………百合の花に囲まれて眠ると死ぬという迷信(?)の出典はこのシーンなんじゃないかとすら思われてくる。

 

夢十夜の第一夜を思い出しますね。

 

すらりと揺ぐ茎の頂に、心持首を傾けていた細長い一輪の蕾が、ふっくらと瓣(はなびら)を開いた。真白な百合が鼻の先で骨に徹(こた)える程匂った。そこへ遥の上から、ぽたりと露が落ちたので、花は自分の重みでふらふらと動いた。自分は首を前へ出して冷たい露の滴る、白い花瓣に接吻した。

 

 

最初のうちこそこの高等遊民がよ~~ッという気持ちで読んでいたが、この美への感性を目の当たりにし、三千代へまっすぐに向かう希求の気持ちを目の当たりにしたあとだと、ラストの「僕は一寸職業を探して来る」という言葉が非常に切なく響く。読み終わったあと「どうすればいいんだ……?」という呆然とした気持ちになった。でもこういう余韻、嫌いじゃないです。

 

 

転職活動、まあまあメンタルやられますね。やってらんね~~の気持ちでいっぱいです。面接でやりたいビジネスについて笑顔で語ったあとベッドに大の字になって「ビジネスなんて微塵も興味ね~~~~~~~~!!!!!!!!」って叫んでる。感動するためだけに生きたい。