まくら

読んだ本や好きな文章の感想

染野太郎『人魚』(歌集)

twitterで見かけた染野太郎さんの歌に萌え散らかしたので歌集を買いました。

 

感情がなければいいなひとりだな便器掴んで吐くこの朝も

 

これがその短歌なんですが

も……萌え~~~~~~~;;;;;;;

 

私は「多方面から追い詰められて自傷または他傷に走る人間」という概念(フィクション)がとても好きで……愛おしくて……マジでこの歌は性癖ど真ん中なんですが、そういう観点で萌えてるのは私だけかもしれない。

 

いきなりの「感情がなければいいな」、めっちゃ良。

田村隆一「帰途」(『言葉のない世界』)の「言葉なんかおぼえるんじゃなかった」を初めて見たときと似たような印象を受けた。

世間的に望ましいとされているものが「なければよかった」っていう言葉、抑圧されて抑圧されてそれでもこぼれてしまった悲鳴みたいなもので、この抑えられたトーンの向こうに見える「痛み」が好きだ……この言葉が出てくるまでに一体どれだけ傷ついてきたんだろうと思わせられる。

 

あと「吐く」ね〜〜……実際の嘔吐は汚いししんどいし好きじゃないんですが、「嘔吐という概念」は清潔感があって好き。小川洋子によって人格形成されたところがあるので「食べ物は汚いもの」という思想がやはり根底にある。

あと金原ひとみの『AMEBIC(アミービック)』的な……

 

それから「朝」。この歌、「夜」じゃだめなんですよね。夜に吐いてるのはただの酔っぱらいだから。それに夜ってのはとかく孤独を感じがち。

「ひとり」を感じて「吐く」のが「」に設定されているからこそこの痛ましさが際立つ。

 

朝日が満ちる真っ白いマンションの一室で冷たい便器を抱えながら嘔吐しているとき、ふと身が切れるような「孤独」を実感してつぶやく、「感情がなければいいな」。

グッ………ウォ……………も、萌…………………………(泣)

 

 

 

海を見に行きたかったなよろこびも怒りも捨てて君だけ連れて

 

先ほどのが「推し概念短歌」(「こんな人間がいたら“推し”だな……」と感じる短歌。必ずしも特定の人物やキャラクターを想定しない。私の造語)だとしたら、これは「推しカプ概念短歌」ですね。

 

この歌も良〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!

 

「よろこびも怒りも捨てて」が好き……「かなしみも怒りも」とかじゃなくて「よろこび」も捨てているところが良い。

君に対する怒りも、君と一緒にいられる喜びも捨てたからっぽの世界で、ただ「君と海を見たという事実」だけがほしい。萌〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!

誰も泣かない 誰も笑わない 世界の終末に…君がいてさえくれればいいってか……(トーマの心臓)

 

 

あとこの歌、たとえば

 

海を見に行きたかったなよろこびも怒りも捨てて君とふたりで

海を見に行きたかったなよろこびも怒りも捨てて犬だけ連れて

 

こういう形でもあり得たと思うんですけど、そうはせずに「君だけ連れて」としたのがまた「独りよがり感」が出ていて良い。

語り手だけが一方的に「君」との思い出を求めている感じがする。多分そんなだから「君」と「海を見に」いけなかったんだろうなぁ……独りよがりだからこその切実さが心臓を刺してくる……

 

 

 

君の手の触れたすべてに触れたあとこの手で君を殴りつづける(「充足」)

 

私は執着と暴力が一体化してるものなどに萌えたりもするのでこの歌のこと理解したいんですが、わ、わからない……なぜ……なぜ殴る……?

 

君の手が今まで触れてきたもののすべてに触れなければならない(「無数」)

 

多分この歌(とその周辺の歌)に関わりがあるんでしょうが、わからない……なんなんだ……この歌が詠まれた背景とかを知っていないとわからないんだろうか……いつかわかったら追記するなどします。

 

 

ここしばらく現代短歌のブームが来ているんですが、オススメ歌人や歌集などあればぜひ教えてください。

次読む予定の歌集↓

山田航『水に沈む羊』

枡野浩一『ロングロングショートソングロング』

俵万智『チョコレート革命』