今日はアイドルの動画を久々にじっくり見ていい気分なので、アイドルにまつわる本について。
これ単行本でも読んだんですけど、紙媒体の小説で横書きというのにどうにも慣れなかったので、文庫本では縦書きになっててよかった。
この人の文章、句点が少なくて一文が長い。そういう書き方の好みは人それぞれだろうけど、私は結構好き。少なくともこの小説においては。(この著者の本は詩集やエッセイを何冊か読んだけど、星か獣になる季節が一番好き)
まずこの話、陰キャっぽい主人公が推している地下アイドルが殺人を犯すところから始まります。詳しいストーリーは割愛。短いしすらすら読めるので気になる人は読んでみてください。
私が一番好きな箇所はここ
「ゆうちゃんを殺したのはわたし」
けれど、きみはそう言ったのだ。ぼくの血管が、血液があわだち、濁っていくのを感じた。嘘だ、きみを殺して、首を絞めて、嘘だろと暴力を振るわなきゃぼくが死ぬ気がする。生きられない、破裂する。耳の骨が震えて、ぼくの全身が共鳴していく。波形、弾け飛んで、ぼくが死ぬ前に君を殺さなくちゃ、殺そうとするぐらい正しくやさしくきみに尋ねなくちゃ、嘘をつくなよ。殺されたもの、死体、遺体、女の子の夢や希望や未来や愛情やそのすべてのいのちを、踏みつぶして、きみを、殺して、嘘をつくなよ、叫ぶよ、伝えたい、きみの、きみのテーマカラーはピンク、人の身体を粉々にしてできるピンク色。
うーん、この疾走感……!! テンポが良くて何度でも読みたくなる。
「ぼくが死ぬ前に君を殺さなくちゃ、殺そうとするぐらい正しくやさしくきみに尋ねなくちゃ、嘘をつくなよ」ここはもう暗記しました。考えるのではなく感じて読む文章だと思う。過激な言葉たちが気持ちよくリズムよく、おそらく緻密に計算されて置かれていて、なんだか癖になる。
ただこの本ね、私もアイドルはしばしば見るし推している人たちもいますが、主人公のアイドル観に本当にこれっぽっちも共感できなくてもはや面白い。
きみは、知っているのか。ちゃんとわかっているのか。ゆうちゃんは殺されて、ばらばらにされて、観光客がばかみたいにやってくるパワースポットの大木の下に、捨てられていたんだ。きみがしたって言ってしまったら、ぼくはきみを平凡だと、見下すことができなくなる。きみはわかっているのか。そんな、凶悪な存在にならずにただ、ばかみたいな歌と踊りを、努力でしかないもので身につけていけよ、そんな人間だろお前は。
かわいいだけの、才能のない、必死で練習してるアイドルが好きなんですね、この主人公は。
きみはどうしようもなく才能もなくてセンスもなくて、そしてそれに劣等感を背負いながら、そう見せかけようと努力ばかりする。好きな食べ物も好きな音楽もどれもこれも平凡で、少し他人と変わった所があると、それを誇りに思っている。その態度だ、その他者よりすこしでも上に行こうとするそのみじめな姿がぼくは好きだ。だってきみはみじめでかわいそうで、ぼくはきみのこと、軽蔑したいだけできるから。
う~ん、彼が言っていることはなんとなく理解はできます。だけど私はそういう観点でアイドルを見たことがない! この点に関しては完全に共感ゼロ。
私がアイドルに求めるのは完全な虚構性というか……、果てしなく自分から遠い存在、それこそ完璧な理想としての偶像であってほしい。努力の跡も見たくないしプライベートも知りたくないし、MVのメイキング動画とかですら苦手。自分とは次元を画したはるか向こうの天上人であってほしい。マイケルジャクソンとか好き。
地下アイドルを応援したい!成長していくところを見たい!という気持ちもわかる。ただ、そう思う相手はもはや私の中では「アイドル」ではないというか……。触れることのできない上位存在、概念としてのアイドルを、地べたから見上げるスタイルをとっていきたい。
ただ、こんなにも共感できない考え方感じ方が綴られた小説って私はあんまり出会うことがないので、これを読むたびにこんな考えの人もいるんだな~って面白い。あと、単純にことばの選びと運びが好きです。話の展開もショッキングで猟奇的で、それでいて文体は軽いので気軽に程よい刺激を得たいときに読みたくなりますね。アイドルの罪を代わりにかぶるために何のためらいもなく周りの人を殺していくイケメン、大変良かったです。
あと、そのイケメンと旅行の班が分かれてしまったという理由で、「なんでだよ! 一緒に長野いこうよ!」と叫びながらイケメンをリコーダーで殴る友達、ハチャメチャに好きです。疾走感のあるセンセーショナルな血の流れる青春模様を読みたい方はぜひ。