BLEACH ❤️BIG LOVE❤️
卓越した言語感覚
BLEACH、作者の言語感覚が本当に漫画界で頭一つ抜けてると思う。特に少年心をくすぐるカッコよさという点では頂点にいるんじゃなかろうか。
獄頣鳴鳴篇に触発されてこの前の年末に久しぶりに読み返してたんですけど、BLEACHを初めて読んでから多分10年以上経ってるはずなのに今でも何一つ色褪せずカッコよかったから仰天した……
巻頭ポエム
みんな大好き巻頭ポエム(巻頭歌ともいう)。ページの上に入ってるイラストもオシャレなんだよなあ……
表紙・巻頭ポエム・キャラクター紹介ページのオシャレ具合で既にほかの漫画と一線を画していることがわかる。なんというか美意識が徹底している。
俺達は 手を伸ばす
雲を払い 空を貫き
月と火星は掴めても
真実には まだ届かない
ー10巻 志波岩鷲
オ~ン これなんか好きなんですよね……
「月と火星は掴めても/真実には まだ届かない」めちゃオシャでは…!?
あとこれ、空鶴さんの花鶴射法の詠唱「猿の右手が星を掴む」とも少しリンクしてるのが良い。
空鶴さんマジで好きなので出番もっといっぱい欲しかった……タレ目の強い女、大好き……
ただ執拗に 飾り立てる
切り落とされると知りながら
ただ執拗に 磨き上げる
切り落とされると知りながら
恐ろしいのだ 恐ろしいのだ
切り落とされる その時が
切り落とされた その髪は
死んだあなたに 似てしまう
―29巻 チルッチ・サンダーウィッチ
チルッチ・サンダーウィッチちゃん!!!!!!!!!
この七五調好き;;; 久保帯人は七五調の使い方が上手い。
内容も好きなんだよな〜〜言われてみれば当たり前のことかもしれないが、自分の一部だったものが自分から切り離されたとたん「死体」になってしまう、その事実を「死んだあなたに似てしまう」と表現しているところが好きだ。
私は個人的に「自分の死体」でなくて「死んだあなた」になぞらえてるところにオリジナリティを感じたので、ポエムの2ページ目は蛇足とまでは言わんが無くていいと思った。1ページ目だけで十分に意味は伝わるし……(なんでこの詩だけ2ページ目がある?)
不幸を知ることは
恐ろしくはない
恐ろしいのは
過ぎ去った幸福が
戻らぬと知ること
―46巻 松本乱菊
乱菊さんは知ってしまったんですよね、かつてあった幸福がもう失われてしまっていることを・・・・・・・
なお、私が恐れるのは「想定していた幸福な未来が来ないことを知ること」なので、乱菊さんとは似て非なるなあ・・・とこれを読むたび思っています。
以下、推しカプ概念ポエム。
ぼくは ただ きみに
さよならを言う練習をする
―15巻 吉良イヅル
吉良が自分の首を絞めようとしているようなイラストと相まって、吉良の陰キャ感がよく出てますよね。
15巻の表紙も他と一風変わったオシャレ感があってお気に入り。
この世のすべては
あなたを追いつめる為にある
―21巻 平子真子
世界一嫌いだと言ってくれ
―31巻 ザエルアポロ・グランツ
このシンプルな言葉にザエルアポロの見下すような目だけを切り取ったイラストがついているのがとても……とても良い
僕は ついてゆけるだろうか
君のいない世界のスピードに
―49巻 黒崎一護
一緒に数えてくれるかい
君についた
僕の歯型を
―52巻 月島秀九郎
この月島さんのやつエッチ過ぎませんか?エッチだし厭らしいし一緒に数えさせるの気持ち悪いし、だけどエッチ・・・・・で好き・・・・・・・・
詠唱・解号・斬魄刀
BLEACHを私の中で特別たらしめている大きな理由の一つは鬼道の詠唱。この漢文訓読調に満ち満ちた詠唱がいちいち他の追随を許さないカッコ良さなんですよね。
私は漢詩(の書き下し文)が好きなんですけど、久保帯人先生は大分漢詩の素養がある気がする。なんというか語彙とか言葉のリズムがいかにも漢詩だなってものが多い。特に対句表現が好きなので、対句が頻出するのとても嬉しい。
でも漢詩が好きだからBLEACH好きって人間を私以外まだ見たことがない。漢詩の要素を得られる漫画ってマジでレアなのでもっといてもいいと思うんだが・・・・
散在する獣の骨
尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪
動けば風 止まれば空
槍打つ音色が虚城に満ちる
破道の六十三 「雷吼炮」
(20巻)
これすこなんですよね~~。特に「動けば風 止まれば空」のところ、詩情に溢れている。特に似ているわけではないが、これを読むとなぜか高見順の詩「天」の「その果実の周囲は既に天に属してゐる」という一節を思い出す。
この「動けば風 止まれば空」、どこかの漢詩だかで「元ネタこれでは?」ってやつを昔見たことあるような気がするんですけど、何もメモが残っておらずわからない。メモしてないってことは大して似てなかったのかもしれない。もし元ネタわかる人いたら教えてください。
細かいことなんですが、「動けば風 止まれば空/槍打つ音色が虚城に満ちる」とか、前述の志波岩鷲の巻頭ポエムみたいに、短い対句のあとに長めの文が配置されるときのリズムが好き。漢詩「勅勒の歌」の、
天は蒼蒼
野は茫茫
風吹き草低れて牛羊を見る
のリズムを思わせる。単に言葉選びがかっこいいだけじゃなくてそのリズムまでが心地よく整えられている、それがBLEACH。それが久保帯人。
滲み出す混濁の紋章
不遜なる狂気の器
湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き 眠りを妨げる
爬行する鉄の王女
絶えず自壊する泥の人形
結合せよ 反発せよ
地に満ち己の無力を知れ
破道の九十 「黒棺」(48巻)
BLEACHを語るうえでやっぱりこれは外せませんよね。「絶えず自壊する泥の人形」ってところが一番好き。それと同様に縛道の九「撃」の「自壊せよ ロンダニーニの黒犬」も良い……。まあつまり「自壊」って語に中二心をくすぐられてるだけなんだが……
この前ジャンプ+で「株式会社マジルミエ」って漫画読んでたんですけど、魔法少女が呪文(?)を唱えて変身する回のコメント欄で黒棺の詠唱してる人がいて笑った。
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解号とか斬魄刀の名前も信じられんくらいオシャレでカッコよくて洗練されてますよね。
まず私が好きなのは涅マユリの「掻き毟れ 『疋殺地蔵(あしそぎじぞう)』」「金色疋殺地蔵(こんじきあしそぎじぞう)」っすね……
まずこの「疋殺地蔵」って名前で見た目が胎児ってのがさぁ……ねえ? もうなんか「ありそう」じゃん 閉ざされた山奥の集落での民間伝承の中とかに………ときめく……
それに魔胎伏印症体も含めてみんな胎児の姿ってのもマユリとめちゃくちゃマッチしてるんだよな〜〜……「気持ち悪い科学者」感がとても良く出ている。ネム誕生のエピソードとも繋がって趣深いし……
あとのこの胎児のビジュアル、気持ち悪いのに不快感を覚えない絶妙な塩梅がスゲ〜好き。これはBLEACH全体について言えることですが。
基本的に私は和風の解号や斬魄刀名のほうが好きなんですけど、その例外の一つがノイトラ・ジルガの「祈れ 『聖哭螳蜋(サンタテレサ)』」。
いや…………いやいやいや……………………マジ? い、「祈れ『サンタテレサ』」???
ヤバない?オシャレ過ぎませんか?漫画史上に残るフレーズでしょ絶対
祈れサンタテレサ、これがかなり不信心そうなノイトラの斬魄刀名とその解号であるという違和感。横柄で傲岸不遜で人よりは獣に近い戦闘狂の口からこんな清冽な言葉が叫ばれる、そのギャップがたまらない。脱帽です
螳蜋はカマキリのことですが、「前脚を持ち上げて待ち伏せする姿が祈るように見える」ことから「サンタテレサ」と呼ばれることもあるらしい(wiki情報)。
ノイトラのビジュアル、特に解放後の姿はカマキリに似てるし、ノイトラはカマキリをモチーフに作られたんでしょうね。
格上のネムに突っかかるノイトラの態度もまさに「蟷螂の斧」だし………こういうさ〜〜随所にある教養が大好きなんですわ。
↑これがノイトラ。なおノイトラが刀剣解放するのは35巻。
そして、浦原喜助の卍解「観音開紅姫改メ(かんのんびらきべにひめあらため)」。
か…………………かかか観音開紅姫改メ………………!??!?!??!
ヤバイヤバイヤバイ 最後に「改メ」を付けるセンスがヤバい
これが凡俗な人間だったら「紅姫観音開」とかにしてても不思議じゃないと思うんですよ。そ、それを「観音開紅姫改メ」としてしまう、これが久保帯人の真骨頂
浦原喜助の卍解をずーーーーーーーーっと待ってたのが73巻でやっと……!!こんな………!!!ありがたい…………………!!!!!
私は京楽春水の卍解「花天狂骨枯松心中」もメチャ好きなんですけど、浦原喜助と京楽春水の斬魄刀の何がいいって、二つとも「女モチーフ」なところ。
私は女にだらしなくて強いキャラクターが好きなんですが、そういうキャラが女モチーフの武器使ってるとときめく。Dグレのクロスとかもそうですね。
セリフ
好きなセリフ……これもメチャクチャ多い………
厳選します
…兄貴ってのが…
どうして一番最初に生まれてくるか知ってるか…?
後から生まれてくる…
弟や妹を守るためだ!!
(1巻)
これ初めて読んだときビックリした。「一番最初に生まれきた人が兄」なんじゃなくて「兄は兄だから最初に生まれてくる」という一見メチャクチャな因果の逆転。それなのに「な、なるほど…」「確かに…」と思わせられる。強烈な違和感と説得力を両立させる鮮やかな手法……スゲェ……どんなふうに生活してたらこんな表現思いつくんですか?
ほら、
押し潰すほどの青空が
おれたちの背骨を嘗めてゆく
(4巻)
このまま詩人の詩集に載ってても何の違和感もありませんね。4巻当時の明るい青春の空気とそれと隣り合うようにして常に存在している不穏や不安……その空気感を絶妙に体現しているところも好きだ。「青空が背骨を嘗める」て本当に感性と表現が詩人なんですよね。
おぬしの様な赤ん坊に
息の仕方から教えてやるほど
儂の気は長うはないぞ
(18巻)
や……山本元柳斎重國〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!
この圧倒的強キャラ感、ラスボス感。さすが生ける伝説、護廷十三隊総隊長山本元柳斎重國。このセリフのシーンで山本元柳斎重國がおそらく霊圧飛ばしただけで七緒ちゃんが白目向いて泡吹いて気絶しそうになってるの、本当に天と地ほどもある格の違いが伝わってきてゾクゾクする。
憧れは
理解から最も遠い感情だよ
(20巻)
BLEACHで一番有名なセリフではないですか?
これ初めて読んだとき衝撃が走ったし何度読み返しても思い返してもいつでも新鮮に「好きだ……!!」となる。このセリフがあることがブリーチを傑作たらしめている理由の一つではないかとすら思う。
マジで“そう”なんですよね。憧れや好意的な感情っていうのは相手の中の自分にとって不都合な一面を見えなくするばかりか、事実と異なる「理想像」を勝手に作り上げる。まあこれは多くの人間に実感されてることだと思うんですが、ここでは愛染を一途に慕う雛森について語られた後に愛染がこのセリフを言うからこそパワーが生まれている。
愛染の役に立つために死にもの狂いで努力して副隊長になった雛森。でも雛森は文字通り盲目的に愛染に憧れていたから一番近くにいても愛染の本当の姿がわからなかった。この言葉の怖いところは、大逆の罪人である愛染が発しているにも関わらず「真理」であるところ。真実だったからこそ日番谷は何も言い返せなくて逆上したんじゃないか。
そして表現の面で素晴らしいと思うのは、みんながよく知る感情をここまで端的に言い表したところ。簡潔だが無骨ではなく、詩的な響きもありつつ言っていることはストンと腑に落ちる。真理性と短さを兼ね備えているからこそ人口に膾炙しているんでしょうね。ちなみに私の好きな歌人である藪内亮輔氏もこのフレーズを使った歌を詠んでいます。(→藪内亮輔『海蛇と珊瑚』(歌集) - まくら)
「…君達にとってこの戦いは… そうまでして勝たなければいけないものなのか…!?」
「はァ!?
アッタマ悪ィんじゃないの!?
勝たなくていいなら最初から 戦争なんか起きゃしないのよ!
破面は兵士よ 十刃はその頭領
敵を殺し勝つ為に生まれた
赦された敗北なんて
無いのよ!
何処にもね!!! 」
(29巻)
このチルッチ・サンダーウィッチちゃんと石田の問答好きだな……。
「そう(自分の腕を焼き切るのに等しい行為)までして勝たないといけないのか?」という問いに対して「勝たなくていいなら最初から戦争なんて起きやしない」と返すチルッチちゃん……いや、本当にそうですね……「そこまでする必要ある?」って思うことがあっても、それは「する必要があるからこそそこまでやっている」んですよね。それはそうだ。考えてみれば当たり前のことなんですけど、このチルッチちゃんのセリフ読むまでその当たり前のことを考えようとしていなかった気がする。
↑チルッチ・サンダーウィッチちゃんです。
本当はブリーチの感想は一つの記事に収める予定だったんですが、ここまでの内容で書きたいこと全体の三分の一ぐらいで、全然書き終わらんわワロタになったので分割します。あと書きたいのは「リョナ」「好きな関係性・シーン」「典拠」。次回か次次回か次次次回の記事で続き書くぞ。