まくら

読んだ本や好きな文章の感想

新井英樹『RIN』とかいう最高傑作

今回は漫画の話をします。

新井英樹の『SUGAR』『RIN』というボクシング漫画、特に『RIN』のことがマジでマジでマジで好きで、これまで読んできた漫画の中で好きランキングトップ3に入るレベルなんですが、周りで読んでいる人がおらず人と語れないためここで感想(BIG LOVE…❤️)を書きます。

 

RIN 1

RIN 1

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(kindle unlimitedで読み放題のようです)

 

『SUGAR』は石川凛という少年が主人公です。石川は高校を中退して板前になるために東京に行くんですが、何やかんやあってプロボクサーになります。

『RIN』は『SUGAR』の続編で、プロボクサーになった石川と、石川の幼馴染であり石川の好きな相手である千代との関係性が話の主軸の一つになっていきます。

 

これが〜〜……もう…………すごいんです…………マジで…………………

 

以下、ストーリーにかなり言及していきます。ネタバレありです。

 

 

 

言葉選びのセンス

新井英樹の言語センス、すごいんですよね。なんか…詩人…なんですよ……品のない詩人って感じ………(褒めてます)

 

 

おそらく早いよ 登りつめるの!!

自発的でなく 自動的時代的に

自戒のヒマなく 頂点にね!!  (『SUGAR』第48発)

 

あのバカ尾なのに

デリカシーゼロ 脳ミソエロ 自己中毒 欠陥人格の到達点・・・・のクセに

「天は二物を・・・・」じゃ表現として甘過ぎ

天は中尾をギリギリ ヒトとするために

ボクシングのみを 与えやがった!!  (『SUGAR』第44発)

中尾っていうのは石川の(一応)師匠なんですが、めちゃくちゃすごいボクサーでした。24戦24勝の元世界チャンピオン。

「ギリギリ人間にするためにボクシングのみを与えた」って表現すごくないですか? 中尾は実際そんな感じなんですよ……今は卑猥なことばっかり考えてる腹の出たオッサンなんですが、最盛期の中尾の試合映像は本当に本当にかっこよくて………「したっけゴージャス」!!!!天才中尾~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!

石川と中尾の直接対決回は激アツだった………………

 

石川 お前知らないの?

1発も殴らせずに相手を倒すのが

ボクシングだよ  (『RIN』19発目)

中尾の発言です。この圧倒的「天才」感…………カーーーッ!!!!

 

胸 ヒジ 肩 足 腰・・・・使って「打ちます」サイン 送ってくるのよ

マヌケに ガサツに 妥協して寛容に!!

なんだ これ?

人柄の良さに才能の無さ付けた実演販売なの?

送料無料の通販?

「宛て先」どこの誰?  (『SUGAR』第49発)

 

まあ 神とまでは言わないまでも 運命? かな?

その運命が 「初戦の相手はつまづき得ない石コロ程度」だと勘違いをさせるいたずらしてて

したっけオレは小石じゃなくてピリオドだから

「マコとマコパパものがたり」に 軽やかに・・・・

打ち込みまくるよ 悲劇の終止符をさ  (『SUGAR』第59発)

この「オレは小石じゃなくてピリオドだから 打ち込みまくるよ悲劇の終止符をさ」ってセリフほんと~~~~に好きで……初めて読んだときすごいびっくりした。どうやったらこんなセリフ出てくるんだ。マジモンの天才?文豪か??

 

 

ほか、ボクシング関連で好きなセリフ。

 

・・・・あのね「人柄は二の次 ひたすら殴れ」

「美しく残酷に殴るほど客は喜ぶ

悲しむのは相手だけ それがプロボクサーだ」

俺の師匠が言ってたね 才能はなかったけど  (『SUGAR』第36発)

 

打って当てて 除(よ)けて外すのが ボクシングだとしたらねっ

打って外し 除けて当たっちゃあ それっ

別ジャンルよ!!  新たな試みだってんなら 推理してみるけどさ

例えば 実のところ 後輩のオレにも話せない心の闇とか

「当てない除けない」宗教的理由でもあるなら話は別だけどっ さ  (『RIN』2発目)

 

凡人の夢も希望も 努力・気迫・根性も 天才の前には全てが無意味になる

天才の美しさを見せつけるスポーツ

それがボクシングや  (『SUGAR』第7発)

この「凡人の夢も希望も 努力・気迫・根性も 天才の前には全てが無意味になる」っての好きなんですよね~~~…スポーツ漫画でこういう発言があるの、珍しくないですか?  この「天才」がここでは石川なわけですよ……ッカーーーーー!!!

ここから石川の圧倒的才能がほかのボクサーたちを打ちのめしていくわけです…たまんねえ……

 

 

 

最悪の童貞喪失回

たぶん史上最悪。

石川は『RIN』2巻で童貞喪失するんだけど、2巻の頭のほうであった、チェーンソー人間挽肉エピソードが完全に忘却されてしまうくらいインパクトがあった。

 

新井英樹は「悲劇」を描くのが本当にうまい……何をどうしたら人間をより深い地獄に落とせるのかわかっている。そのあたりの容赦がなさすぎる。『キーチ!!』も『宮本から君へ』もそう。

とんでもない悲劇や地獄が進行している間に何気ない日常が挿入されて、それが悲劇のすさまじさを引き立てている……

 

まず、石川は幼なじみの千代のことがめ〜〜〜〜〜〜〜〜ちゃくちゃ好きなんですよ。

傲岸不遜でリングマナーも最低で試合会場がアンチで埋め尽くされるような石川なんですけど、千代に対しては本当にピュアで一途。

千代はかなりツンツンしたクールな女なんですが、石川に惹かれてる。

つまり両想い。

でも石川は失恋する。

石川の目の前で千代が他の男に告白して、付き合うことになる。なぜか?

 

この辺の二人の心理描写ももうすっっっっっっっごくて……………………………

なぜ千代が石川のこと好きなのに石川のこと振るのかって言ったら、「石川がボクサーになってしまったから」。

 

石川が千代の前で跪いて告白してるとき、千代は石川じゃなくて、自分の隣に置かれた石川のグローブを見てる。そして石川を振る。

石川は人間じゃなくて「ボクサー」になってしまったんですよね。それも並大抵のボクサーではない、不世出の、超弩級の天才ボクサー。

生きてる世界が、歩くスピードが違いすぎると千代はわかってるから、石川と一緒にいられない……。

 

「ボクシング・・・・始めてからのリン 本当に・・・・変わった」

「・・・・・・かもしんねえ」

「高校ん時の仲間もみんな引いてるよ リンが・・・・怖いって」

「・・・・仕っ方ねえべさ

人としてよか ボクサーの方選んじゃったんだから・・・・オレ」

「意味・・・・わかんないよ」

 

石川が、世界チャンピオンになったときの記念のグローブを千代にあげようとするようなボクサーじゃなかったら、まだ希望はあったかもしれないのに……。

(余談ですが、石川と千代が二人で話すときはちょいちょい北海道弁が出ててほほえましい)

 

 

で……………今度は千代が石川の目の前で他の男(藤本)に「私とお付き合いしてください」って言うシーン。

ここ、千代に告白された男は感極まって俯いて千代のこと見てなくて、そして千代は告白したあと石川の方を見つめる。

藤本が「僕も・・・・ずっと あなたを見てました」って俯きながら言う傍らで、見つめ合ってるのは石川と千代なんです。

 

ここヤッッッッッッッッッバ…………………………!!!!!!!!!!!!

本来「ずっとあなたを見ていた」のは、石川が千代を、千代が石川を、なんですよ。でもここでカップルが成立しているのは千代と藤本なわけで……………もうさ、この三人、誰も幸せになってない。だけどこうするしかないんだよ、千代は…………………

 

 

で、振られてヤケになった石川は千代への当てつけで初体験を済ませようとします。

ゴミが溢れてる部屋で、畳なんか腐っちゃってて、母親より年齢が上の女性と。

 

その女の、親指の絆創膏、脇の剃り残し、尻の肌荒れ、背中のシミ……渡された金を、積まれたミカンの間に挟む……そこにひとつ混じっている腐ったミカン………電灯の紐に結ばれた布………ゴミが散乱するキッチン、きたねぇ壁………………

このあたりの描写、マジでもう「神は細部に宿る」真骨頂。「最悪の初体験」のお膳立ては完全に整った。

 

そして………ここで入る(個人的に)衝撃の石川の発言………………

尻丸出しの状態でひっくり返されてハメ観音に手コキされる石川……「するなら『最初は千代』だったんでしょ」「いつもだって千代でシコシコしてるクセに」ってハメ観音に言われて、石川は赤面して顔を手で覆いながら、

 

「おかず」に使ったら

なんか千代を汚しちゃうじゃん

 

おっ………………お前………………………………おま………………………………………………

石川っっっっっ………………………………………………!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

このコマ結構小さめなんですが、この石川の………千代へのなんていう純粋な愛情…………………本当に愛おしい。石川、お前は今ハメ観音にフェラされてる場合じゃないんだよ。でも……でも…………っ石川と千代はこうなるしかなかった……………………………っっっ!!!!!!!

 

そんで石川は……………いつか見た千代の笑顔を思い浮かべながら、ハメ観音にハメさせられて、童貞喪失するんですけど…………………………

この童貞喪失の場面が本当に本当にもう筆舌に尽くしがたい最高で最悪の演出。言葉にできん。読んで……ください……

 

 

 

千代・・・・

今夜のこと 千代にだけは話せません

 

石川〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!!!!!!😭😭😭😭😭😭😭😭

 

 

 

 

石川にとってのボクシングとセックス

本当はまだまだ取り上げたいことあったんですが、卒論になってしまうのでこれにだけフォーカスします。

 

あの~……セックスなんですよね。ボクシングが、石川にとっては。

作中、結構しょっぱなからずっとボクシングがセックスになぞらえられてて、それが立石戦で回収される感じ。

石川・立石戦、いろんな意味で好きすぎて気が狂う。

 

千代に振られて抜け殻みたいになった石川が立石と試合するんですけど……

ボーっとしてた石川が、立石に頭突き(バッティング。反則です)くらってグラグラになって、やっと目の前の試合と立石に向き合う。

 

で……でね………今までずっとその人格と才能ゆえに周りの人間との間に距離を感じていた石川が、すぐ近くから噛みつきそうな勢いで自分を見つめる立石の目に出会う。

もう………あの…………すごい。恋に落ちる瞬間。ここで石川-千代の地獄みたいな関係性から、石川-ボクシングの最高の世界に物語の舞台が移る。

 

そんでこの試合シーンの画力……!圧倒的………画力…………ッッ!!!!!!画力は説得力。新井英樹天才過ぎるだろ;;;;;;

ボクシングのこと全然詳しくないから石川のすごさをつかみきれてないけど、転んだレフェリーを石川がバックステップでまたぎながら立石の顔面にパンチ入れるやつめっちゃ好き。そして石川は立石を一方的にボコボコにしながら、すっごく楽しそうに笑うんですよ。最高だ。

 

あと、立石の熱視線(殺意)に辛抱たまらなくなった石川が立石に抱きついて、

いい匂い

いい体

気持ちもいいから

好き

って言ってから、立石の顔面に思いっきり右ストレートキメて立石がマットにたたきつけられるコマ 気が狂いそうなほど好き この漫画を読むために今まで生きてきたのかな?

 

それから、顔面からダラダラ血を流す立石に石川がノーガードで近づいて、顔覗き込んでこういうんですよ。

まだ全然じゃん

さあ 殺せ

殺す気だろ?

ブツンて殺して!!

いややや ほんっと待ってた

躍る躍るな胸っ ヤッベ~~~

 

お前 もう オレの譲司っ

オレも お前の石川 凛だと・・・・

合体か

 

う~~~~~わっ ガマンできね~~

 

ボクシングでもって石川は立石と合体しようとしてるんですね。セックスです。セックスでした。これまで千代関係でズタボロになって風俗狂いになって自傷行為みたいなセックスを繰り返していた石川が、ここでようやく「幸福なセックス」を知るんですよ。リングの上で。

ボクサーになったせいで千代に振られ、ボクサーになったためにリング上でこんな風に合体できる相手に出会える。石川………ッ!!!!!おめでとうとまでは言えないにしても………よかったな…………ッッッ!!!!!!!

 

そして私がマジで好きなシーン…………立石が完全に頭に血が上って、ラウンドが終了しても石川に向かっていこうとしてレフェリーに制止されてるところ…レフェリーに抱えられてる立石の前に石川がグローブ差し出して、立石がそのグローブをたたくんですけど。

その……ッ!!立石のグローブが触れた自分のグローブに、石川が頬を染めながら唇をつけるんですよ………!!!

これ多分作中通して初めて描かれる石川のキスシーンで。(見落としてたらすみません)

いや………こんなキスシーンある???グローブとグローブで………えっ?こんなキスシーンを思いつける新井英樹人間国宝…?

もうこのキスシーン見た後だと、千代と彼氏のディープキスがマジで汚いものに見える。(石川の試合シーンに千代と彼氏の生々しいセックスシーンを挿入する新井英樹、鬼)

 

あと立石との試合終わった後、石川が空飛んで勃起して絶頂してどろどろに溶けていくような描写……これが一巻の最初の試合の後、石川の石川が縮んでた描写の回収になるという、ね………。本当に作中通しての伏線の張り方がえげつない。伏線っていうか、何もかもがつながっていて、全部のコマ全部のセリフ全部の描写でもって『RIN』という作品が構築されている。何度読んでも発見がある………

 

 

実は『RIN』、初めて読んだとき石川と千代がどう見ても両想いなのにくっつかなかったことがめちゃくちゃショックで、「バッドエンドじゃん;;;;;;;」となり1年ぐらい読み返すことができなかったんですが、心が落ち着いてから勇気出して再読したら「ハッピーエンドじゃん…?」となり大丈夫になりました。

終わり方がね…最初読んだときは千代と石川のすれ違い…というか、千代幸せにならなくね?と思ってつらかったのですが、ラストの千代の電話相手が彼氏だとすると、結構気のおけない仲になっているようで千代と彼氏が幸せになる未来があるかもな。と安心できるようになりました。石川も石川でボクサーとして充実した生活を送れてそうだし……

 

まだ作品の好きなところすごいところの1/10も語れていない。6時間は座談会したい。

 

新井英樹『RIN』、大好きだ~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

この表紙のリンかっこよくて一番すこ

 

 

ところで、スマホからアプリで記事を見たときと、ブラウザで見たときとでフォントサイズが違ってしまうのって、仕様なんでしょうか。それとも私だけ?

前々からブラウザで見たとき文字デケェ…と感じていたので縮めてみたのですが、今度はアプリで見たときにだいぶ文字が小さくなってしまって読みづらい。

CSSとかに関してはかなり素人なので、解決法など知っている方いたらぜひ教えていただけると嬉しいです…!

 

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21/11/4追記

新井英樹先生ご本人からこの記事への反応をいただきました。こんなことってある?

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嬉し恥ずかしです……オタク冥利に尽きる………こんなものすごい作品を生み出してくださってありがとうございます!!!!!!!この作品に出会えて本当によかった………っ!!!BIG LOVE